こんにちは、社会福祉士のほしくずです。
今回は、「身体拘束及び高齢者虐待防止に関する研修」について紹介していきます。
令和6年度の介護報酬改定により、高齢者虐待防止研修が義務化されました。身体拘束は、高齢者虐待に含まれることから、身体拘束と高齢者虐待の研修は、一体的に行うことがお勧めです。
身体拘束や高齢者虐待に関する研修資料をお探しの方は、ぜひ参考にしてみてください。
身体拘束とは
身体拘束とは、厚生労働省『介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き』によると、「本人の行動の自由を制限すること」とされています。
「身体的拘束等」とは、介護保険法に基づいた運営基準上、「身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為」であり、入所者(利用者)の「生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き」行ってはならず、原則として禁止されています。
身体拘束3つのロック
身体拘束は、大きく分けると次の3つに分類されます。
3つのロック
・フィジカルロック
・ドラッグロック
・スピーチロック
フィジカルロックは、身体を縛ったり、ミトンを着用したりする一番目で見て分かりやすい拘束です。
ドラッグロックは、精神安定剤などを必要以上に投与して、ご本人の行動を抑制する拘束です。
スピーチロックは、「ちょっと待って」と言ってそのまま放置したり、「危ないから動かないで」といって動きを制限したりする言葉による拘束です。3つの拘束の中では、現場で起こりやすくかつ身体拘束や不適切ケアにあたることに気づかず、無意識的に行われてしまいがちであるため、注意が必要となります。
身体拘束が認められる場合
介護保険制度上では、身体拘束が認められる場合にがあります。
「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するための緊急やむを得ない場合」であって以下の3つの要件を全て満たしている場合です。
身体拘束3つの要件
◆切 迫 性 :利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
◆非代替性 :身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと
◆一 時 性 :身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
しかし、この要件を満たしていれば身体拘束を行って良いわけではなく、拘束を行ったとしても、それを解除するケアの検討を行うなど、常に拘束をしない方向で考えていく必要があります。
身体拘束廃止・防止の対象となる具体的行為(例)
「身体拘束ゼロへの手引き」(平成 13 年 3 月 厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」)より、身体拘束廃止・防止の対象となる具体的行為について確認しておきましょう。
身体拘束廃止・防止の対象となる具体的行為(例)
❶一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
❷転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
❸自分で降りられないように、ベッドを綱(サイドレール)で囲む。
❹点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
❺点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手装等をつける。
❻車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
❼立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
❽脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
❾他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
❿行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⓫自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
ここに記載がないからといって、それ以外の行為が身体拘束に当たらないわけではありません。
私たちは、常に自分たちのケアをふり返り、サービスの質の向上を目指していくことが必要です。
高齢者虐待防止の取り組み義務化
令和6年度の介護報酬改定にて、全サービス事業所を対象に高齢者虐待に関する取り組みを行うことが義務化されました。
具体的には以下の内容になります。
ポイント
・虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等の活用可能)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者 に周知徹底を図ること
・虐待の防止のための指針を整備すること
・従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること・上記措置を適切に実施するための担当者を置くこと
高齢者虐待防止法
この法律は、平成 17 年 11 月 1 日に国会において「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が成立し、平成 18 年 4 月 1 日から施行されました。
高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
この法律では、高齢者に対する虐待を禁止することはもちろん、虐待を発見した際には市町村への通報義務も定められており、虐待の早期発見・防止に関することも含まれた内容になっています。
高齢者虐待とは
高齢者が養護者や養介護施設職員から不適切な扱いにより権利・利益を侵害される状態や生命・健康・生活が損なわれるような状態に置かれることであり、大きく5つに分類されます。
高齢者虐待の傾向
高齢者虐待の通報・相談件数と虐待判断件数は、令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(報告)よると、過去最高となりました。
虐待の要因としては、「教育・知識・介護技術等に関する問題」56.1%、「職員のストレスや感情のコントロールの問題」23.0%、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」22.5%、「倫理観や理念の欠如の問題」17.9%となっています。
なぜ、高齢者虐待が起こるのか?
高齢者虐待の取り組みが義務化される前から、虐待の研修を行ったり、虐待が起こらないような仕組みづくりをしたり、各事業所では様々な取り組みをしてきたと思います。
しかし、虐待は増加傾向となっているのはなぜなのかを考えなければなりません。
虐待要因として最も多い「教育・知識・介護技術等に関する問題」から考えると、虐待という認識がなかったり、経験やスキルにあった技術や知識の習得が不十分であったりすることが考えられます。
もう少し具体的に示すと以下のとおりです。
ポイント
〇教育の質と内容の不十分さ:研修や教育を受けても、その内容は不十分である。研修や教育の内容が、職員の経験値や現場の実情と合っていない。
〇学んだ理論と実践のギャップ:研修や教育を受けても、その内容が現場に活かされていない。研修や教育の内容が、現場で実践できる状況になっていない。
〇コミュニケーションの不足:問題が発生しても共有されていない。問題があると感じても声に出さない。問題に対して、適切な対応が議論されてない。
〇継続的な教育の必要性:フォローアップやふり返りがない。定期的な研修やスキルアップの機会が提供されていない。
このような状況が生まれていないか、各事業所内で確認をする必要があると思います。
不適切なケアから考えてみる
上記の図のように意図的・非意図的な不適切ケアが放置されている状況が続くと、虐待へとつながっていく可能性が高くなっていきます。
不適切なケアの段階で、ケアを見直し、将来虐待につながりそうな芽を摘んでおくことが重要です。
意図的な不適切ケアとは?
意図的な不適切ケアとは、介護者が意図的に行う行為であり、高齢者の心身を傷つける目的や悪意が含まれており、介護者が自身の行為が高齢者の不利益となっていることを認識しているケアのことを言います。
例えば、ご利用者が呼んでいるにも関わらず「ちょっと待って」と言ってそのままにしたり、職員がイライラしていてご利用者への対応や言葉遣いが乱暴になったりすることなどがあげられます。
非意図的な不適切ケア
非意図的な不適切ケアとは、介護者が故意ではないが、結果として高齢者に対して不適切なケアになっていることです。介護者の知識不足、技術不足、不注意などが原因で発生する事故などがこれにあたり、介護者は悪意や故意なく行動しているが、その行為が高齢者の不利益となっているケアのことを言います。
例えば、同じ事故で何度もご利用者が受傷しているにも関わらず、ケアの内容が改善されないなどがあげられます。
不適切なケアがないかチェックする仕組みが重要
どういった行為が不適切なケアにあたるのか、組織としてきちんと示しておくことが重要になります。
そのためには、職員同士のコミュニケーションや情報共有が必要です。定期的な会議の中で、ひとりでも疑問を感じているケアがないかを確認したり、日常的なケアの場においても、そのケアが本当に適切なのかを考えて行うことが重要となります。
もし、だれも疑問を持たず、無意識的にその行為が行われているとすれば、それがいずれ組織内で常態化してしまい、不適切ケアと気づきにくくなってしまいます。
職員やご利用者に限らず、誰かが「悲しみ」や「不快感」、「違和感」を感じているケアは、不適切なケアである可能性が高い!
日頃のケアをふり返り、不適切なケアがないか考えてみましょう。
まとめ
身体拘束や高齢者虐待は、職員のケアに対する意識や事業所のサービスの質に関連するものです。
常に日頃のケアをチェックする体制をつくり、ふり返りや見直しを行っていくことが重要です。