介護業界が深刻な人手不足に直面する中、神戸市北区に位置する特別養護老人ホーム「六甲の館」が注目されています。
同施設を運営する社会福祉法人弘陵福祉会は、「利用者ファーストのための職員ファースト」という理念のもと、職員の働きやすい環境づくりに力を注いでいます。
その取り組みが高く評価され、2024年には「介護職員の働きやすい職場環境づくり」で内閣総理大臣表彰を受賞しました。本記事では、この施設の取り組みと成果、そして描く未来のビジョンをご紹介します。
理念「利用者ファーストのための職員ファースト」
「六甲の館」が掲げる理念は、「利用者ファーストのための職員ファースト」です。これは、利用者に最高のサービスを提供するためには、まず職員が健康で、働きやすい環境で仕事ができることが不可欠という考えに基づいています。
溝田弘美理事長は、「職員が元気でなければ、介護の仕事は長続きしないし、人手不足も解決しない」と語ります。自身の現場での経験を通じて痛感したことから、職員の心身の健康を守ることを最優先に掲げ、施設運営に取り組んできました。
内閣総理大臣表彰を受賞した理由
2024年、「六甲の館」は介護職員の働きやすい職場環境づくりで内閣総理大臣表彰を受賞しました。
この賞は、介護現場での労働環境改善における先進的な取り組みを行う施設に贈られるものです。同施設が高く評価されたのは、以下のような具体的な取り組みとその成果によるものです。
具体的な取組み
1、ノーリフティングケアの徹底
2、見守り機器の活用
3、労働環境の改善
4、ICT化と介護助手の配置
1. ノーリフティングケアの徹底
施設内に天井リフトを30台導入し、職員が利用者を持ち上げる作業を減らしました。
この取り組みにより、職員の腰痛発生率は56%から9%に大幅に低下。肉体的負担の軽減に成功しています。
2. 見守り機器の活用
利用者の特性に合った見守り機器を複数導入し、夜勤中の訪室回数を6.3回から3.8回に削減しました。このことで、職員の負担軽減と利用者の安全確保を両立しています。
3. 労働環境の改善
年間総残業時間は880時間から76時間に削減され、有休取得日数も6.7日から9.9日に増加しました。職員が安心して働ける環境づくりが進んでいます。
4. ICT化と介護助手の配置
業務の効率化を目指し、ICT化を推進。また、介護助手の配置や外部サービスの活用によって、職員の業務負担を軽減しています。
職員を守る環境がもたらす成果
これらの取り組みの結果、六甲の館では人材確保が順調に進んでいます。現在では職員が充足し、求人媒体への広告費はゼロ。主に口コミや職員による紹介(リファラル採用)で人材を確保しています。
溝田理事長は、「私たちの取り組みはまだ道半ば」と語りますが、施設の環境改善が利用者と職員双方に良い影響をもたらしていることは明らかです。
未来のビジョン:介護職を憧れの職業に
溝田理事長は、介護職を「憧れの職業」にするという未来のビジョンを描いています。
そのためには、働きやすい職場環境の整備が不可欠です。ICTや介護ロボットの活用により職員の負担を軽減し、利用者との時間を増やすことで、やりがいや仕事の楽しさをさらに向上させることを目指しています。
また、高齢になっても負担なく働ける環境づくりや、副業を含めた柔軟な働き方を認める方針を採用。これにより、モチベーションアップや離職防止を図っています。
「当たり前」を徹底することで未来を創る
「ご利用者に最高のサービスを提供するには、職員が元気で楽しく働ける環境が必要」。これは一見当たり前のことですが、その当たり前を徹底して実現することが、六甲の館の成功の秘訣です。
介護業界全体が抱える課題に正面から向き合い、未来を見据えた取り組みを続ける六甲の館。テクノロジーの活用と労働環境の改善によって、介護職員が輝ける職場づくりを進めています。
まとめ
特別養護老人ホーム六甲の館は、「利用者ファーストのための職員ファースト」を実現するためのモデルケースです。その先進的な取り組みは、介護業界全体にとって貴重な示唆を与えています。
職員を大切にすることが、利用者の生活の質を向上させる――そんな当たり前を追求する姿勢が、介護業界の未来を明るく照らすことでしょう。