こんにちは、社会福祉士のほしくずです。
2024年度介護報酬改定の概要が明らかになり、報酬改定に向けて準備を進めている頃だと思います。
その中で管理者や経営者が気になるのが、新たな処遇改善加算についてだと思います。
「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ加算」そして令和6年2月に始まった「介護職員処遇改善支援金」。これらが一本化され、令和6年6月から新たな処遇改善加算がスタートとなります。
今までの処遇改善に関する計画書等の必要書類も一本化されるため、時間的コストの軽減になると思いますが、その要件などはきちんと確認しておかなければなりません。
この記事では、新しく始まる処遇改善加算の概要や算定要件などを解説していきます。
現行の介護職員処遇改善加算の概要
現行制度に則った処遇改善加算について確認していきます。
現在の処遇改善加算は以下の3つです。
処遇改善加算の種類
1、「介護職員処遇改善加算」
2、「介護職員等特定処遇改善加算」
3、「介護職員等ベースアップ加算」
ここに令和6年2月に施行された「処遇改善支援金」が加わっています。
介護職員処遇改善加算
介護職員処遇改善加算の対象は、介護職員のみです。
算定要件は、以下のキャリアパス要件と職場環境等要件を満たす必要があります。
算定要件
<キャリアパス要件>
①職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
②資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
③経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
※就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む。
<職場環境等要件>
賃金改善を除く、職場環境等の改善
この算定要件によって加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを算定できます。
算定要件別の加算
<介護職員処遇改善加算Ⅰ>:キャリアパス要件のうち、①+②+③を満たすかつ職場環境等要件を満たす
<介護職員処遇改善加算Ⅱ>:キャリアパス要件のうち、①+②を満たすかつ職場環境等要件を満たす
<介護職員処遇改善加算Ⅲ>:キャリアパス要件のうち、①or②を満たすかつ職場環境等要件を満たす
介護職員等特定処遇改善加算
対象は、事業所が①経験・技能のある介護職員、②その他の介護職員、③その他の職種に配分します。
算定要件は以下のとおりです。
算定要件
※介護福祉士の配置割合等に応じて、加算率を二段階に設定。
〇処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
〇処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
〇処遇改善加算に基づく取組について、ホームページ掲載等を通じた見える化を行っていること
「介護職員処遇改善加算」の要件にもなっている「職場環境等要件」についても確認しておきましょう。
区分 | 具体的内容 |
---|---|
入職促進に向けた取組 | ・法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 ・事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 ・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 ・職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | ・働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対す る喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 ・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 ・エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入 ・上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 |
両立支援・多様な働き方の推進 | ・子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 ・職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の 制度等の整備 ・有給休暇が取得しやすい環境の整備 ・業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 |
腰痛を含む心身の健康管理 | ・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策 の実施 ・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 ・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 ・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上のための業務改善の取組 | ・タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ・高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提 供)等による役割分担の明確化 ・5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ・業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減 |
やりがい・働きがいの醸成 | ・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善 ・地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 ・利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 ・ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
「職場環境等要件」として、研修の実施などキャリアアップに向けた取組、ICTの活用など生産性向上の取組等の実施を求めています。
・ 介護職員処遇改善加算 :以下のうちから1つ以上取り組んでいる必要
・ 介護職員等特定処遇改善加算 :以下の区分ごとにそれぞれ1つ以上取り組んでいる必要
介護職員等ベースアップ加算
対象は、介護職員となっていますが、事業所の判断により、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用が認められています。
算定要件は以下の通りです。
算定要件
〇処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
〇賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の2/3は介護職員等のベースアップ等(※)に使用することを要件とする。
※「基本給」又は「決まって毎月支払われる手当」の引上げ
令和6年6月「処遇改善加算」一本化へ
介護職員の人材確保を更に推し進め、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへとつながるよう、令和6年6月以降、処遇改善に係る加算の一本化と、加算率の引上げが行われます。
加算率は以下の通りです。
処遇改善(新加算)の加算率
介護職員等処遇改善加算(新加算)Ⅰ...24.5%
介護職員等処遇改善加算(新加算)Ⅱ...22.4%
介護職員等処遇改善加算(新加算)Ⅲ...18.2%
介護職員等処遇改善加算(新加算)Ⅳ...14.5%
算定要件は以下の通りです。
算定要件
1、キャリアパス要件
2、月額賃金改善要件
3、職場環境等要件
それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
「処遇改善加算」一本化の要件①:キャリアパス要件
キャリアパスの要件は、以下の①~⑤の5つが示されています。
キャリアパス要件の中身
キャリアパス要件①(加算Ⅰ~Ⅳ):介護職員について、職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件を定め、それらに応じた賃金体系を整備する。
キャリアパス要件②(加算Ⅰ~Ⅳ):介護職員の資質向上の目標や以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保する。
※1,研修機会の提供又は技術指導等の実施、介護職員の能力評価
※2,資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助等)
キャリアパス要件③(加算Ⅰ~Ⅲ):介護職員について以下のいずれかの仕組みを整備する。
a 経験に応じて昇給する仕組み
b 資格等に応じて昇給する仕組み
c 一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み
キャリアパス要件④(加算Ⅰ~Ⅱ):経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であること。
キャリアパス要件⑤(加算Ⅰ):サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置していること。
①~③は根拠規程を書面で整備の上、全ての介護職員に周知が必要となります。
また①~③の要件については、「R6年度中は年度内の対応の誓約で可」となっています。
④の要件については、「R6年度中は月額8万円の改善でも可」となっています。
「処遇改善加算」一本化の要件②:月額賃金改善要件
月額賃金改善要件については、以下の①~②の要件が示されています。
月額賃金改善要件の中身
月額賃金改善要件①:新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、月給(基本給又は決まって毎月支払われる手当)の改善に充てる。
※現在、加算による賃金改善の多くを一時金で行っている場合は、一時金の一部を基本給・毎月の手当に付け替える対応が必要になる場合があります。(賃金総額は一定のままで可)
月額賃金改善要件②:前年度と比較して、現行のベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の新たな基本給等の改善(月給の引上げ)を行う。
※新加算Ⅰ~Ⅳへの移行に伴い、現行ベア加算相当が新たに増える場合、新たに増えた加算額の3分の2以上、基本給・毎月の手当
の新たな引上げを行う必要があります。
①については、「令和7年度から適用」となっています。
②については、「現行ベア加算未算定の場合のみ適用」となっています。
「処遇改善加算」一本化の要件③:職場環境等要件
「職場環境等要件」については、どの新加算を算定するかにより、算定要件が異なります。
職場環境等要件の中身
介護職員等処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ(新加算):上記の表の6つの区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上、うち一部は必須)取り組む。情報公表システム等で実施した取組の内容について具体的に公表する。
介護職員等処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ(新加算):6の区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組む。
介護職員等処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ(新加算)の要件については、「R6年度中は区分ごと1以上、取組の具体的な内容の公表は不要」とされています。
介護職員等処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ(新加算)の要件については、「R6年度中は全体で1以上」とされています。
介護職員等処遇改善加算(新加算)の算定に必要な申請書
介護職員等処遇改善加算(新加算)の算定に必要な申請書等についての詳しい内容については、「介護保険最新情報:介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え並びに事務処理手順及び様式例の提示について(案)」に示されていますので、確認してみてください。
また、概要についてはリーフレットも発布されていますので、併せてご確認ください。
まとめ
この記事では「処遇改善加算」に関する基礎知識、新しい「介護職員等処遇改善加算」の概要、「キャリアパス要件」「月額賃金改善要件」「職場環境等要件」の詳しい内容について解説してきました。
介護報酬改定については、毎度のことながら年度末の忙しさに加えて、最後まで準備が大変だと思います。
この記事が少しでも参考になれば嬉しいです。